「漆」素材の可能性と魔法瓶の機能性に
着目した新しい掛け合わせ。

漆器をふだん使いのうつわとして、“暮らしの中で選ぶ感覚”が広がったのは、民藝運動以降。さらに2000年代以降は、クラフトフェア、作家ものブームの浸透によって、より身近な存在になった。改めてそのルーツを遡ると「漆」の存在が発見されたのは、約1万年前だといわれている。縄文人がかなり早い段階で多面的な使い方をしていたのだという。先史社会での営みが、現代まで続いていることに、言葉にしがたいロマンを感じずにはいられない。そんな「漆」の可能性と魔法瓶という素材の機能性に注目したのが、合同会社COCOO代表・発起人、北山浩さんだ。今夏は小川珈琲と協働し、オリジナルタンブラーを制作する初の試みに挑戦。伝統的な素材としての漆の魅力、漆を用いて生み出したクラフトについて、話を伺った。

 

 

 

 

 

 

 

漆の木は中国や朝鮮半島、日本列島の山地には古くから分布されている。日本で「漆を採るための良質な漆の木」を維持し、増やすには人の管理がかなり重要になっている。漆液を採取できるようになるまで、一般的に15年前後かかると言われている。

COCOOの敷地内に植っているウルシノキ。木の花が咲く初夏にはミツバチが蜜を集めにやってくる。

漆はきらびやかな装飾として用いるだけではなく、耐久性・抗菌性・修復性に優れた素材でもある。その多様性に惹きつけられた北山さんは、新感覚の「漆タンブラー」という京都発の画期的なクラフトを、編み出すことに成功した。それは、「真空魔法びん構造×全面天然漆コート」で作られた「真空漆」。手にそっとなじむ形と軽やかさが魅力だ。

「私はかつて、魔法瓶メーカーに勤めていて、新規事業を開発するチームに属していました。魔法瓶というと、ボトルの形をしていて外に持ち出すイメージをする人が多いと思うんですけれども。電気もガスも使わずに温度を保ち続けられる機能が結構いいな、と常々思っていました。加えて、私はコーヒー好きで、趣味で焙煎を嗜んでいました。ほかにも日本茶や中国茶を淹れる、お茶の時間が日々の楽しみで。そうした特別な時間に、ステンレスのタンブラーに注いで飲むことがちょっと味気ないと思っていたんです。魔法瓶は飲みもののおいしい温度感を保つのに適しているので、その機能を活かして、毎日愛用できるようなクラフトを作りたいと思ったのがアイデアの起点です。家の中ではもちろんのこと、アウトドアでもカジュアルに使えるクラフトを目指しました」

そうしたモチベーションが生まれたとき、スタンダードなコーヒーカップではなく、よりいろんなシーンで使うことができる形状にしたい、と北山さんは考えた。

 

「民藝やアンティークが好きなこともあり、個人的にいろんなクラフトを集めていて。理想のものづくりをあれこれと考えを巡らせていたときに辿り着いた形状が、そば猪口でした。この形状はマルチツールだな、と。それで漆コートで作った『真空漆』を作り、『KISSUL』(キッスル)というネーミングを付けました。『喫する』という意味を込めています」

『KISSUL』のそば猪口の形は、古書を参照しながらじっくりと研究を重ねた。

そば猪口のカタチから着想を得た、
手の内に収まる心地よさ。

「そば猪口が作られた初期からサイズ感がだんだんと変わってきています。いちばん最初はもっと小さな猪口で。だんだんといろんな使われ方をして立て付けの悪いところで使われた背景があり、猪口の直径が少し広くなっています。こうした資料を眺めていると、200年〜300年の間に進化を遂げているのがとても面白くて」

ステンレス製の2種断熱容器で保温・保冷効果があり、食べものや飲みもののおいしい温度をキープできる。両手で持っても熱くなく、常に心地よい状態で触れられる心地よさがある。

北山さんは、「KISSUL」を作る際に、手で持ったときの感触にこだわり抜いたという。
「手が小さめな女性でも片手でも両手でも持てるサイズ感を意識しました。漆という素材に辿り着いたのは、魔法瓶の金属素材に直接触れるとどうしても金属臭がしてしまい風味を損ねるので、何かしらのコーティングができないかと素材を探していたから。せっかくならば、天然由来のものがいいなと。それで実際に漆素材を使うと3、4回塗って乾かさないといけなかったりして、扱いが大変なことに気づいたんです。それでも、漆の可能性を諦めきれなくて色々と調査を重ねていくうちに、加工の仕方を工夫するとしっかり固まることに気が付きました。ある文献に当たってみると『焼き付け』という、漆を塗った後に焼く工程を経るといいことがわかったんです」

漆の素材の可能性を最大限に生かし、
美しく、新しいものを生み出す。

「焼き付け」という工程は、料理で言うところのコンベクションオーブンで火を通すような作業だ。

 

「『焼き付け』には大体1週間〜10日かかり、さらにそれを30分乾かすという手間暇がかかります。そうした原始的な方法以外の『焼き付け』をやっている人はあまりいませんが、昔からあった手法で。南部鉄器を作る工程でも『焼き付け』はありますが、それはオーブンを使うのではなく、鋳型からバッと出して熱いうちに漆をすり込むやり方。文献の論文にはそうした技術的なことが書き記されているし、せっかくなら論文に出ている人に当たろうと思ったら、実際、漆屋で論文を書いている人がひとりだけいて。それが、今、一緒にものづくりをしている『佐藤喜代松商店』です。大正10年に創業し、京都・西陣の老舗漆屋の漆精製職人として伝統的な技術を継承しながら、漆への科学的なアプローチをしているユニークさも私の心に響きました。佐藤さんに『焼き付けでものづくりをやってみたい』と伝えたところ、二つ返事で『面白そうだからやります』と言ってくれて。自分で金属の魔法瓶を磨いて下地を作り、漆を塗ってオーブンで焼き付けたら思いのほかうまくいったことで商品化に至りました」

今回、小川珈琲とCOCOOがコラボレートしてタンブラーを制作。制作工程として、細かい砂を撒く代わりにコーヒーグラウンズ(コーヒーを抽出した後に残る粉)を撒いている。グラウンズをかけた後にヤスリをかけてザラつきを払うために表面を整える作業を。この時点では、タンブラーからうっすらとコーヒーの香りが漂う。

漆を3回塗り、オーブンで3回焼き、乾いたものをヤスリで研ぐ。

原始的なアプローチで漆をコーティングするという、アナログな作業から工業的な技術が生み出される面白さ。手を動かしながらでしか辿り着けない、ものづくりの深淵を感じさせてくれる唯一無二のクラフトである。

「工業的でありながら、漆の塗り方はかなり手技に頼っています。ある程度、訓練を受けた人なら習得できる技術です。大量生産はできませんが、少量〜中量生産ぐらいまでは人手をかければできる商品です。今回、小川珈琲さんと協業し、コーヒーの粉をふりかけて焼き付ける技術を編み出したことは、ものづくりにおける新たな挑戦であり、発見がありました。コーヒーを抽出した後の粉は、粒子が細かいのでなんとなく焼き付けられるんじゃないかなと思ったのが、着想のスタート。こうして、アップサイクルできるのがいいことですし、常に素材と対話しながら実直にものづくりをする姿勢を大切にしたいと常々思っています」

 

優しい口当たりかつ、保温・保冷が可能な「漆タンブラー」をはじめとしたCOCOOの商品は、修理を承っているという。

 

「塗料はお客様にご負担いただくことにはなりますが、漆の塗りが剥げたところを塗り、ケアをさせてもらいます。金継ぎのように塗った後が少し分かるような修理の仕方もありますし、染め物のように全部総塗りで新品同様に塗り上げることも可能です。それが漆の面白さ。直しながら大事に使うことも皆さんに伝えていけたらと思います。ちなみにCOCOOでは、京都・西陣の色漆を使って、自分だけの器を作るワークショップも行っています。旅行でいらした方や家族連れの方など、さまざまな方が参加してくれています。商品を手に取ってもらうのはもちろんですが、そうしたワークショップに参加して、漆という素材の可能性を多くの人に知ってもらえたら嬉しいですね」

COCOOと小川珈琲のコラボレーションで製作されたタンブラー。ブルーとピンクの2色展開。小川珈琲のリキッドコーヒーとのセットで、6月15日(月)より販売。COCOOタンブラー(ブルー/ピンク)1客 + 小川珈琲 直営店 オーガニック アイス 無糖 500ml 2個のセットで16,500円(税込)。

EVENT INFORMATION
漆、珈琲、暮らし。

 

イベント名:漆、珈琲、暮らし。
会場:小川珈琲 堺町錦店 2Fギャラリースペース
日時:2026年6月20日(土)~6月28日(日) 7:00~20:00
入場:無料

 

本漆を用い、漆のコップにステンシルでイニシャルや模様をあしらうワークショップを開催。実際に手を動かしながら漆に触れ、伝統技術、ものづくりの魅力を体感できます。

 

ワークショップ:2026年6月21日(日) 10:00~11:00・13:00~14:00・15:00~16:00 2026年6月28日(日) 10:00~11:00・13:00~14:00・15:00~16:00
会場:小川珈琲 堺町錦店 2階ギャラリースペース
参加費:4,000円
定員:各回5名
予約:Peatixリンク