コーヒーとココ。
国内の自動車メーカーの仕事で、年に1ヶ月ほど海外に飛ばされていた。自社の車がどのように使われ、どのような改善点があるかを探すための旅に同乗し、毎日、日本へとレポートを送るという仕事だった。オーストラリアから始まって、ヨーロッパ、アメリカ、そしてブラジルへと走行する大陸が変わっていく。運転はさせてもらえず、延々と助手席に座っているだけ。車窓から流れる景色を眺めるだけでも楽しかったが、とにかくいつも眠かった。アメリカでは現地スタッフからスリーピーというあだ名をつけられるほど、車に乗り込むとすぐに眠りこけてしまう。2〜3時間に一度、トイレ休憩や給油のためにガソリンスタンドに寄ると、必ずと言っていいほどコーヒーを飲んだ。
ブラジルのガソリンスタンドでは、コーヒーはプラスチックの小さなカップに入って5レアル。エスプレッソよりは多く、日本のコンビニのレギュラーサイズよりは少ない量で、およそ100円。そのコーヒーが、とても美味かった。さすが、ブラジル。淹れたてでもなく、朝から保温されていたはずのコーヒーなのに、酸っぱくもなく、甘みが強く感じられた。ガソリンスタンドの一杯が、単調な毎日の楽しみだった。車に乗り込んで、大農場・ファゼンダのダートに揺られながら眠りこけ、コーヒーを飲んで目を覚まし、地平線へと向かって走る。ガソリンスタンドには大抵、炭火で肉を焼く食堂がついていて、引火しないのか心配になったが、その肉も美味かった。つけ合わせの野菜には見知ったものが多く、ブラジルには日本人移民が持ち込んだ野菜が根づいているからだと聞いた。濃いめの味つけは言うならば労働者向けの食事で、寝ているだけなのに減った腹を満たした。美味いコーヒーを飲み、そしてまた走り出す。私はずっと助手席に座ったまま。
日本の企業らしくルールには厳格で、週末は休みのために車は動かさない。海沿いのリゾート地でステイになり、私は一人でひたすら街中を歩き回って市場を覗き、海沿いで夕暮れを待った。ココナッツを並べて売っている少女がいて、その前で立ち止まると「ココ?」と長い髪をかき上げながら聞く。ひとつ買い、ココナッツウォーターを飲んで、ビーチを眺めた。祝日を合わせて結局3泊したその海沿いの街で、毎日「ココ?」と聞かれ、夕暮れが訪れて、サウダージ。翌日はまた朝から車で走り出し、建物がなくなるジャングルに近い場所まで走り、ポツンとあるガソリンスタンドで味の濃い定食を食べ、コーヒーを飲んだ。
ブラジルでの1ヶ月間で覚えているのは、コーヒーの美味さと「ココ?」という響きだけ。助手席で眠ってばかりいたからだ。けれど、ブラジルは最高だった。











