コーヒーと食。その未知なるペアリングの可能性を料理家や食のプロフェッショナルをゲストに迎え探っていく「バリスタと料理家」。第9回のゲストは、製パン理論を学び、食材の特徴を理解し、五味を丁寧に分析して自家製のパンや料理を届ける「TOLO PAN TOKYO」の田中真司さんです。今回は、コーヒーと独創的なフレンチトーストのペアリングを探るトークセッション。
モーニングに食べたい、フレンチトーストのペアリング。
1日のスタートに、休日の遅めの朝に食べたくなるフレンチトースト。「TOLO PAN TOKYO」の田中さんが作るフレンチトーストは、軽やかで “掛け合わせの妙”に唸る味わいだ。今回、吉川さんが作るのは2つのフレンチトーストに調和するコーヒー。新たなトライをしたペアリングから引き出されたコーヒーの味わいはいかに。
鮭フレンチトーストに合う、コーヒーとは。
吉川寿子(以下Y)_最初のお題は、鮭定食をイメージしたフレンチトースト。かなりひねりの効いたテーマだな、と(笑)。
田中真司(以下S)_ですよね(笑)。フレンチトーストの上に鮭のローストを置き、さらにその上にポーチドエッグを。そして、最後にソースオランデーズに刻んだエストラゴンを絡めました。この一皿に対して、コーヒーをペアリングしてもらうという、非常にチャレンジングな内容で(笑)。
フレンチトーストの味は、出汁巻き卵をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。アパレイユには、卵と牛乳、白だし、みりんを使っていて、砂糖は使っていません。それゆえに、甘さ控えめな味に仕上がっています。パンの焼き上がりにハチミツはサッと塗っていて、キャラメルにすることで甘みだけでなく苦味もあり、鮭との相性もいいんです。
Y_とっても美味しいです。フレンチトーストは、アパレイユがしっかりとしみた重ためな味わいのものが多い印象ですが、とても軽やかに食べられるのがいいですね。パンの味付けが甘さ控えめだし、食感も軽いから、なおさら鮭の旨みが引き立っていて。味の層のバランス具合が雑妙ですね。
こんな独創的なフレンチトーストには、ストレートにコーヒーの味をぶつけてしまうと負けてしまうので、ある意味では、「コーヒーを作らない」という変化球的な方向性がいいのでは、という結論に至りました(笑)。「小川珈琲」のシェフやパティシエにもアドバイスをもらいながら、“お茶漬け”をコンセプトにしたペアリングを考えたんです。
ズバリ、「鮭定食の〆は、お茶漬けでしょ」という具合に。ベースに選んだのは、「コスタリカ マチョ」というコーヒー。香りを引き出すために、抽出器具にサイフォンを使いました。この連載で初の試みです。
お茶漬け感のある、コーヒーを作るという実験。
S_僕は、ネルドリップで淹れるコーヒーの味が好きで。サイフォンで淹れるコーヒー自体、とても新鮮に感じています。実験的な感じにワクワクしますね。
Y_サイフォンの仕組みを簡単に説明すると、フラスコ内の水を加熱して発生する蒸気の膨張で湯を上部へ押し上げることができます。火を消すと冷えて収縮し、コーヒーが下に落ちる仕組みを利用した抽出器具です。今回は、お茶漬けテイストに仕上げるために、玄米茶とゆず皮をコーヒーに合わせてみよう、と。全体の相性も踏まえて、シトラスフレーバーがあるさっぱりとしたコーヒーを選びました。サイフォンは香りを引き立たせるためのチョイスです。高温抽出になるので出来上がったときの香りが、他の抽出よりも気発性が高い強いという理由から、よりいっそう香りが豊かになります。
S_なるほど、そうしたコンセプトゆえの道具のチョイスなんですね。
Y_コーヒーを抽出した後、玄米茶とゆず皮をロートに入れたら、全体を馴染ませて作ります。
S_この綺麗なピンク色のシロップはなんですか?
Y_自家製の梅シロップです。お茶漬けと言えば、やっぱり梅干しですよね。そこから着想し、ティースプーン半分程度の量をコーヒーに回し入れて、味変するコーヒーの新しいスタイルを編み出しました。
S_なんだか、エキゾチックな味。食中に口の中をスッキリさせてくれる作用がありますね。さっぱりとした酸味と旨味が加わり、コーヒーの苦味が引いていく。ゆず皮の香りも、鼻腔をくすぐります。後味にふんわりと香りが残るのがいいですね。
Y_そうなんです。梅干しの旨味が、魚のにおいを和らげてくれる作用があるのではないか、と。温かい間はお茶のような味わいなのですが、冷めてくるとコーヒーならではの酸味がぐっと上がってくる感じがあります。鮭のローストの香ばしさと玄米茶の香ばしさを調和させています。
S_コーヒーのペアリングでお茶漬け、という発想が本当にユニークですよね。こんな斬新なコーヒーを飲める、と想像していなかったのでとても嬉しいですし、すごく勉強になります。
Y_「お茶漬け定食」という無茶ぶりのテーマが功を奏しましたね(笑)。おかげで発明的な一杯を作ることができました。
フレンチトーストの甘さをコントロールし、調和させるコーヒー。
S_そうおっしゃっていただけること、嬉しく思います。そして2皿目は、ココア味の黒食パンで作った「バナナのフレンチトースト」。
Y_パンのカカオ感の香りやビター感が美味しいです。加えて、キャラメリゼされたバナナの甘さが引き立っているので、口の中に入れるとすごく混ざり合う。とても美味しくいただきました。
S_ありがとうございます。バナナのフレンチトーストに対して、吉川さんが3つコーヒーを選んでいただいたということで。まずは、「インドネシア ウーマン イサク オランウータンコーヒー」を飲ませていただきましたが、とても合いますね。すっきりとしていて、ウッディで。
Y_すごい、ウッディじゃないですか? かつ、スパイシーで。
S_フレンチトーストの甘さやクリームやジャムの舌触りを切ってくれるような感じもあって、とてもありがたいコーヒーですね(笑)。このコーヒーを飲んでいれば、もっとフレンチトーストが甘くても大丈夫なくらいかと。実に、口内をスッキリさせてくれる。
そして「グアテマラ エルインヘルト ナチュラル」は、トロピカルなフルーツと酸味と甘さがあって、とても相性がいいと思いました。カカオやバナナなど、南米で採れる食材を主に使ったフレンチトーストとコーヒーが合いすぎて無限ループしてしまいそうな感じです(笑)。バナナの存在感に負けず、コーヒーが補ってくれる感があるというか。
Y_グアテマラに関しては、カカオの香りやビター感がコーヒーと近そうに思えて相性がいいと思って選びました。そして、最後に「エチオピア タデGG ナチュラル」を。こちらはチェリーやブラックベリーのようなしっかりとした果実味のあるタイプです。一番、すっきりとした味わいですね。
S_だからなのか。自家製のラズベリージャムをプラスしても全然すっきりといける感じなのは。
Y_そうそう、ジャムとの相性ですよね。
S_付け合わせにあるのは、ラズベリーミリンのジャムです。みりんを使って、ゆっくりと湯煎で煮詰めてジャムにしたものです。甘さはほとんどなく、酸味が強いジャムなので、こういう果実味のあるコーヒーと相性がいい。材料に使ったみりんはカシスとか、ベリー系の食材と相性がいいですし、ちょっと香ばしさも出てくるんです。
だから、カカオの苦味にも似た性質がって、相性がいいんだと思います。ラズベリーミリンのジャムと「エチオピア タデGG ナチュラル」のフレーバーが重なり合って、すごく風味が上がってきますね。面白いくらいに(笑)。食感としてジャムは口の中に残りやすい。だからすっきりとしたコーヒーよりも、同じような風味のものを合わせていくといいかな、と思いました。
Y_「グアテマラ エルインヘルト ナチュラル」と「エチオピア タデGG ナチュラル」の2つは、外皮や果肉を漬けた付けたまま乾燥させていて。粘性がある、とまでは言えませんが、舌触りがすごくあり、食べものと重なる感じがあります。
S_コーヒーの自然な甘さがありますよね。
Y_私の中では「グアテマラ エルインヘルト ナチュラル」が一番、合うと思いました。
S_いい感じに合いましたね。ジャムを乗せると、「エチオピア タデGG ナチュラル」が一番だと思いましたけれども。スタンダードなペアリングとしては「グアテマラ エルインヘルト ナチュラル」が一番だな、と。今回、一緒にペアリングの時間を過ごさせてもらって、本当に楽しかったし、勉強になることばかりでした。僕らはパン職人・料理人としての目線だけなので、コーヒーとの相性を改めて深掘りするのは、とても新鮮な時間でした。
Y_こちら的にはすごくチャレンジングなペアリングだったので、とても勉強になりました。特にさっきの鮭フレンチトーストは別格。なかなか、魚とコーヒーを合わせることがないですし、どうしても魚は独特な香りがあったりして。それをどうコーヒーと合わせるのかを試行錯誤しました。何の説明もなく、コーヒーを提供されると「?」という感じになってしまう人もいると思います。しっかり説明があって、食べ合わせの理由があって。それでペアリングコーヒーを飲むと、納得感が増すと思います。体験価値が上がるメニューですね。
S_創意工夫と実験感があって驚きました。僕らは食べ物の素材同士の相性を日々探求し続けてきたけれど、今回の体験を通して、飲み物とのペアリングの可能性が広がりました。
Y_そうおっしゃっていただけることが嬉しい限り。私は改めて、サイフォンという器具に興味が湧きました。これからさらに、新しいコーヒーの淹れ方、味わいを生み出せそうです。
日程:5月29日(金)~31日(日)07:30~11:00
場所:OGAWA COFFEE LABORATORY 桜新町
提供内容:フレンチトーストプレート 、コーヒー、スープ
金額:鮭フレンチトースト 2,800円
バナナのフレンチトースト 2,500円
ぶどうのフレンチトースト 2,500円
予約:食べログ
(https://tabelog.com/tokyo/A1317/A131707/13248078/)
※イベントや提供内容は仕入れや予期せぬ事情などで一部変更になる可能性がございます。











