コーヒーと食。その未知なるペアリングの可能性を料理家や食のプロフェッショナルをゲストに迎え探っていく「バリスタと料理家」。第6回のゲストは、見た目にも楽しいチーズのおいしい食べ方を提案する「THE CHEESE ROOM」の副校長を務めるチーズの専門家「フロマジェ」の村瀬美幸さんです。今回は朝の時間、午後のカフェタイム、夜の時間をイメージしてチーズをコーディネート。それぞれと引き立て合うコーヒーを探るトークセッション。

新たな発見がある。コーヒーとチーズの深い関係。

チーズの種類は実に多種多様。とても奥が深く、熟成状態、切り方、食べ合わせによって、味そのものが変化する面白い食べ物です。同じように、コーヒー豆の製造過程、淹れ方、飲み方次第で味わいが変わるもの。チーズとコーヒーはどこか似た部分があるのかもしれません。コーヒーとチーズのペアリングをぜひ、お二人に導いていただけたら。

朝の時間に寄り添うチーズプレート。写真見中央奥から時計回り/リコッタチーズ+メイプルシロップ+レモンピール、フロマージュ・ブラン+フルーツサラダ、ブラウンチーズ+ラズベリージャム/+小豆粒あん、ゴーダチーズ+粒マスタード+ロースハム+ミニクロワッサン。

朝にぴったりなコーヒーとチーズとは?

村瀬美幸(以下M)_まず、いちばん最初に朝の時間帯に食べたいチーズをイメージしてプレートを作ってみました。熟成が若い優しい味わいのゴーダチーズと今、注目の国産ブラウンチーズ。そして、国産のフレッシュなチーズ2種を用意してみました。フランスの朝食の定番と言えばフロマージュ・ブランとフルーツサラダの組み合わせです。
 
吉川寿子(以下Y)_見た目的に、ヨーグルトかと思いました。
 
M_フロマージュ・ブランは水切りヨーグルトだと思っていただけたら。「共働学舎新得農場(北海道新得町)」のフロマージュ・ブランです。ヨーグルト感覚で召し上がっていただけるフレッシュなチーズです。そして、グラスに入っているのが「タカナシ乳業(北海道根釧地区)」のリコッタチーズ。リコッタは新鮮さが命。特に国産のリコッタチーズは、作り立てが流通しますので、フレッシュな風味ですごくおいしいんですよ。
 
ハムの上にのっているのが、オランダのゴーダチーズ。薄くスライスしたものとキューブ状のものです。マイルドな味わいなので朝食にもおすすめ。ハムと合わせたり、パンと挟んだり、マスタードをつけたり、黒こしょうをかけたりしても。
 
最近国内でも注目度が高いブラウンチーズは、サステナブルなチーズなんです。各地で製造を取り組む工房も出てきました。今回は「フィンランドの森(栃木県那須町)」のブラウンチーズ「ルスカ」をご用意しました。チーズを作るとホエイという乳清が排出されるので、それを再利用して煮詰めて作ったキャラメルチーズのようなものです。
 
煮詰めるとミルクのそのものの自然甘みが引き立ってきます。ひとつはノルウェーの朝食風にラズベリージャムをのせて。もうひとつは、喫茶モーニングの小倉トーストのイメージで粒あんを合わせてみました。
 
Y_煮詰めるとブラウンチーズになるのですね! 未体験の味なのですごく楽しみです。私が合わせたのは、シンプルに朝に飲みたいコーヒー。朝はすっきり飲める味わいを求めているので。フルーツサラダをお出しいただいたので、フルーツのニュアンスがあるものがいいな、と。それで、パナマの「デボラ農園」で作っている「パナマ デボラ イルミネーション」をペアリングしたいと思いました。あまりコーヒーっぽくなく、濃い紅茶のような味わいなんです。

M_ああ、いい香り。確かにフルーティーですっきりしていますね。意外と酸味があるのかと思ったのですが、そうでもないですね。確かに紅茶っぽい。
 
Y_そうなんです。結構、浅煎りのコーヒーなのですが、舌に甘さが残るので酸味が心地よく感じるんです。上質な紅茶を飲んだ後に感じられる渋みが存在しているようで。
 
M_フルーティーな香りが鼻に抜けるから朝の目覚めにぴったりですね。

Y_そうそう。その感じがとても好みです。抽出方法はエアロプレスという空気圧でコーヒーを淹れるスタイル。ペーパーではなく、エアロプレス社から発売されたステンレスのフィルターを使ってコーヒーを淹れているので、よりそのフレーバーが広がっていきます。
 
M_私はコーヒーが大好きで1日に5回以上飲んでいます。ふだんはペーパードリップで淹れていますが、その場合は香りが少ないように感じるんですよね。
 
Y_そうなんですよ。村瀬さん、1日に5杯は飲み過ぎですよ(笑)。

北海道・十勝の「共働学舎 新得農場」のフロマージュ・ブランとオレンジ、りんご、ブルーベリー、キウイを合わせたフルーツサラダ。稀少なブラウンスイス牛のミルクで作られたフレッシュチーズは、ヨーグルトに比べて酸味がマイルドで、ミルキーなコクが引き立つ。

フロマージュ・ブランはフルーツと合わせてサラダ風に。

Y_フルーツサラダと合わせて飲むときは、口の中から水っぽさが消えた後にコーヒーを飲むのが良さそうですね。
 
M_柑橘を食べた後の爽やかな酸味と香りが、コーヒーととても合いますね。香りのトーンが一緒。
 
Y_私は酸味を伝えるために音程に例えることがあって。高い音の酸味と低い音の酸味という言い方を最近使い分けています。甘さがどのぐらい後ろにあるのか。重いか、軽いかを表現するために。「イルミネーション」は両方を持ち合わせているタイプなので、ブラウンチーズにも負けないと思います。今回合わせていただいたリコッタチーズは、実は家で作ったことがあります。
 
M_ええ! すごい。
 
Y_選んでいただいたリコッタは、クリーンな味わいですね。
 
M_リコッタといただくとコーヒーのコクをすごく感じますね。今日は、メープルをかけていますけれども、和風で食べたいなら、黒蜜をかけてみても。きっとコーヒーに合うと思います。

Y_なるほど。ちょっとした食べ合わせで、コーヒーの味の引き出され方が違うということですね。
 
M_リコッタチーズは爽やかなので「朝の目覚め」という感じにぴったり。メープルをかけるとリコッタの良質なホエイプロテインに深い甘みが加わり、手軽にエネルギーチャージができ、「今日は頑張ろう!」という一日のスタートにポジティブになれますね。
 
Y_同じコーヒーを飲んでいても、食べ方次第で味にグラデーションが生まれますよね。
「一品に対するペアリング」という考え方もあるけれども、実は食事の最初から最後まで、ひとつのドリンクで合わせられるのかもしれないですね。村瀬さんがご提案してくださる
さまざまな食べ方に出合い、そう思いました。たくさんの種類のコーヒーを揃えなくても、ひとつのコーヒーで毎日違う朝食を楽しむことができる。新たな発見です! 

M_そうなんです。チーズは守備範囲が広い食べものなんです。熟成が若いミルキーなゴーダチーズとコーヒーを合わせたら、コーヒーは脇役的な存在になって、ゴーダの味を引き立ててくれていますね。
 
Y_ブラウンチーズは、まさにキャラメルのよう。口の中で溶けていきますね。
 
M_何かをプラスしなくてもそのままの味がコーヒーに合うと思うんです。
 
Y_コーヒーがちょっとビターに感じられますね。甘さがあるチーズだから、チーズの質感が重たく感じられる。それによって、コーヒーの上質なビター感をしっかりと引き立ててくれるように思います。ちょっと舌に甘さが残ったところでコーヒーを飲むと、すっきりしていい感じですね。やっぱり、チーズは特徴的な風味があるコーヒーをあえて選ぶのがいいな、と思います。もしくは、色んな味を持っているタイプのものを。

午後のカフェタイムには、食事にもスイーツにもなるチーズを選ぶ。

M_そしてお次は「午後のカフェタイム」をイメージしたチーズプレートを。色んな副食材と合わせるとスイーツ系になったり、食事系になったり。食べ合わせによって味の広がりが生まれるものを考えてみました。

午後のカフェタイムに合わせたチーズプレート。左から/ブリア・サヴァラン+オレンジピール+ブルーベリー、シェーヴル+イチジクのジャム+ローストしたクルミ、プティ・アグール+ブラックチェリージャム、ジャパンブルー+プルーン。

Y_右から2番目はサンゴみたいで可愛い。
 
M_一番左のブリア・サヴァランは一言でたとえると、甘くないレアチーズケーキ。上に乗せたのがオレンジピールで手前がブルーベリー。そのほかに合わせておいしくなるのは、イチゴジャムやラズベリージャム、ゆずピール、クランベリーなど。
 
左から2番目のシェーヴルはヤギのミルクで作ったもの。周りに白カビを纏わせているちょっと珍しいタイプで内側がクリーム状になっています。白カビで熟成していくことによって、すごくミルキーな味になります。
 
以前、フランス人の方に、「クリーミーに熟成したシェーヴルとエスプレッソの合わせがおいしい」と言われたことがすごく頭に残っていて選んでみました。お好みでイチジクのジャムとクルミの食感を足すのもいいかと。口の中を潤わせたくなったら、シャインマスカットを。ヤギのチーズにはマスカットの香り高い風味がすごくよく合います。

M_その隣の花びらのようなチーズは、フランス産の羊のミルクで作られたプティ・アグール。スペインとの国境沿いのピレネーの山のエリアで作られたチーズです。このあたりでは羊のチーズが有名なんですよ。羊のミルクは脂肪分も高いので、チーズ自体、すごく甘みがあります。ブロックで食べると噛みごたえがあって、コクのあるしっかりとした味わいを楽しめますが、今回はクルクルクルと削って、口どけを良くしたいと思い、花びらのようなフォルムになっています。

M_現地でこのチーズによく合わせるのが、ブラックチーズのジャム。今回はこのジャムをチーズの断面に塗って、クルクルと回して、チーズの中にジャムを織り込んでみました。
 
Y_削る前に塗るんですね! なんだか可愛い!
 
M_そしてその隣のチーズが北海道の「冨田ファーム」の「ジャパンブルーおこっぺ」。日本を代表するブルーチーズで、オレンジ色が色鮮やかなブルーチーズです。ねっとりとしたくちどけが楽しめます。ピリッとした風味にしっかりと塩味もありますのでプルーンと合わせて。
 
Y_カフェタイムのシーンなので、コーヒーはストレートよりはミルクを入れてちょっとリッチなトーンにしました。選んだのはインドネシアの「ウーマンイサク農園」が作っている「インドネシア ウーマン イサク オランウータンコーヒー」。オランウータンの保護活動をしながら、おいしいコーヒーを作っています。
 
小川珈琲が取り扱っている代表的なコーヒーのひとつです。味の特徴は、結構スパイシーでエキゾチックな風味を持っているのでミルクと合うのではないか、と。作り方は、少し濃いめに抽出したコーヒーにミルクを注ぐだけ。家で簡単にできますよ。

M_おいしいカフェラテですね!ミルクの風味が生きていますね。ほどよく混ざり合っていて、コーヒーの味が強すぎないのがすごくおいしい。
 
Y_このオランウータンコーヒーはミルクと相性がとてもいいんです。コーヒーがすごくリッチなので、リッチなチーズの味に負けないような気がします。
 
M_おっしゃる通り、ブリア・サヴァランは生クリームが入っているのでリッチな味です。甘くなく、酸味があるのが特徴。心地よい酸味と生クリームのリッチな感じをスイーツ系に仕立てたくてオレンジピールを合わせました。そうするだけでレアチーズケーキになる。実際、作っていただいたカフェラテを合わせるとよりミルク感が引き立ちますね。
 
Y_チーズ単体で食べてみるとわりと酸っぱいので、ミルクを入れない方がよかったかも(笑)。それもまた発見ですね。

クルミ、ジャム、フルーツを添えてチーズのおいしさを引き出す。

M_ブリア・サヴァランを合わせるとしたら、もしかすると熟成タイプのものがよいかもしれません。熟成すると酸味が落ち着くのでミルク感にも合うと思うんです。シェーヴルというヤギのチーズは、通常は爽やかで酸味が引き立っているものなのですが、今日用意したものは酸味があるというよりもコクがある。口に入れた瞬間、白カビのマッシュルームのような香りがふわりと立ち上がります。内側は発酵バターのような味です。白カビの外皮の内側のねっとりとしたクリーム状になっているところの風味がミルクと合うんです。若干外皮の内側が熟成してくるとピリッとするので、そことイチジクの甘さと合わせてもおいしいです。
 
Y_こんな食べ方をすると怒られるかもしれないけれども、チーズの外皮を外して内側のクリーミーな部分とイチジクのジャムと一緒に食べるとカフェラテとよく合うと思いました。少々スパイスが効いたイチジクのジャムがあることでミルクラテとの相乗効果がぐっと上がります。クルミをのせて食べてもおいしいですね。クルミをよく噛みながらコーヒーを飲むとすごく相性がいいです。「ウーマンイサク」のコーヒーは、キャラメルっぽい風味があるので、ナッツ系との相性がいいと思います。
 
M_クルミをちょっと噛んでいくと、すごく香りが引き立っていくんですよね。

Y_意外と添え物のチョイスが味に影響しそうですね。
 
M_そういった意味では、コーヒーにナッツの風味のようなフレーバーがあるから、クルミを添えよう、といったようにアプローチを変えてみるといつものコーヒーが倍おいしくなると思います。
 
Y_合わないものも合うように繋いでくれる橋渡しのような存在が大事ですね。
 
M_プティ・アグールは、羊のミルクで作られているので結構、重心が低いどっしりとしたコクのある味なんです。脂肪分が高いので、ずっと余韻が残るんですよね。ブラックチェリーと合わせるのが、このチーズの地元の定番の食べ方。
 
Y_ブラックチェリーはコーヒーのフレーバーに例える表現でよく使われるイメージなので絶対合うはずなんです。けれども、羊のミルクと牛乳の相性はちょっと微妙かもしれません。口の中で羊の独特のしっかりとした風味が残っているので、カフェラテの味は完全に負けたな、と思いました(笑)。
 
口の中に滞在する時間は絶対、チーズの方が長いんですよね。ただ、コーヒーを変えれば合うかもしれません。ブラックチェリーのフレーバーを持つような発酵を活用して作ったコーヒーは、チェリー系の風味をしっかりと感じるので。それを合わせると果実味が優って相性が良くなるかもしれません。
 
M_それは面白いですね! 次はジャパンブルーを。塩味とピリッとした刺激があり、口どけがすごくねっとりしているのが特徴です。これは今までのラインナップで一番塩味が強いチーズです。
 
Y_塩味とスパイス感の相性もいいし、ミルクとの相性もいいですね。

M_ブルーチーズとスパイスってよく合うんですよ。私はふだん、ブルーチーズにはスパイスティーを合わせることが多くて。シナモン、カルダモン、クローブ系のチャイに使われるようなスパイスの風味がよく合います。
 
Y_その感覚なら「ウーマンイサク」がいいですね。
 
M_そうですね。最後は夜の時間帯をイメージしたチーズプレートをご紹介します。

夜に楽しみたいチーズプレート。写真左手前から時計回り/ブリ・ド・モー+バゲットスライス、ロックフォール+メンブリージョ(西洋かりんのジャム)+ビターチョコレート、パルジャミーノ・レッジャーノ+アーモンド、エポワス+スパイスクッキー

チーズをおつまみに、香り高いコーヒーを飲む夜のひとときを。

M_夜をイメージした、ゆっくりと、じっくりと食べたいチーズプレートです。王道のフランスのチーズ3種とイタリアのチーズを1種セレクトしてみました。まずは白カビチーズの王様と言われているブリ・ド・モー。無殺菌の牛乳から作られていて、すごくコクがあり、奥行がある豊かな味わいになります。
 
今日お出ししたものは、すごく熟成もしっかりとしているので。非常にミルクのコクが上品な余韻となって残っています。フランスでの王道の食べ方はバゲットと一緒に。それから、イタリアのチーズの王様といわれるパルジャミーノ・レッジャーノは、そのまま楽しむには、断然、一口大にかち割って食べてみるのがベター。さらに口の中でかち割ると、香りが充満します。アーモンドと合わせるとすごく香りが引き立ち、香ばしく、おいしくなると思うんです。
 
そして、エポワスというフランス産ウォッシュチーズの代表格を。ワインの産地、ブルゴーニュで作られています。マール・ド・ブルゴーニュというアルコールが45度もあるブランデーで洗っているので、すごく香りが良くて、ナッツのような香り、スパイシーな香りが広がります。この風味を生かしてくれるスパイスクッキーを合わせてみました。
 
もう一つは、フランスで2000年の歴史があると言われている、羊のミルクを使って作られたロックフォールというブルーチーズ。熟成によって、口どけが滑らかになり、まるで室温で溶けたバターのよう。塩味はしっかりとあって、ピリッと感もあり。添えているのがスペインの西洋カリンのジャム「メンブリージョ」。甘酸っぱい感じですごくよく合います。
 
Y_夜の時間帯に合わせたのはブラジルのコーヒー「ブラジル サントゥアリオ スル ゲイシャ ナチュラル 嫌気発酵」です。嫌気性発酵とは、空気(酸素)に触れない状態で活動する微生物の働きで有機物を分解する方法のこと。
 
発酵処理を72時間しているんですが、その前にコーヒーのゲイシャ種から作った天然酵母をふりかけて発酵させているので香りがちょっと特殊なんです。よりフレーバーが強いといいますか。ブラックチェリー、レッドグレープ、ブラックカラントなど、豆の赤みが濃い、ストーンフルーツのフレーバーを持っています。このコーヒーは、「パラゴン」という器具を使って抽出します。

この球体は冷凍庫で事前に冷やしていて、ここに抽出されたコーヒーを触れさせます。この急冷させる方法を「エキストラクトチリング」と表現していて、冷やされることで揮発してしまう約40%の香気成分が液体に留まって、味わいとマウスフィール(コーヒーの質)が向上します。この効果自体に特許を取っているのは業界初です。そして、もともとネルドリップはなめらかで口あたりのいいコーヒーが出来上がるのが特徴なんですね。さらに、冷やすことで質感が向上される。効果があることをダブルでやることに意味があります。抽出温度は88℃と低温に。あまり、苦味を出さずにしっかりとコーヒーの味を出すことが大切です。
 
M_勉強になります。とても面白い抽出方法ですね。
 
Y_ちょっと油分が浮いているのもネルの特徴です。コーヒーのオイルをしっかり透過している。コーヒーの味は「イルミネーション」よりもちょっと濃い目です。

M_確かに見た目からも表面に浮いた油分がわかりますね。
 
Y_そうなんです。選んでいただいたチーズは夜、リラックスしながらちょっとずついただくイメージかと思うので、それに合わせてできるだけボディ感があって、余韻を楽しむことができるコーヒーがいいと思い「ブラジル サントゥアリオ スル ゲイシャ ナチュラル 嫌気発酵」を選びました。主張が強いコーヒーなので、チーズの味とケンカしてしまわないかどうかが、ちょっと心配ではあります。

M_意外と酸味もありますね。
 
Y_飲み終わったときに、かすかにヘーゼルナッツやアーモンド感があって。もう少し時間が経つとビターチョコレートのような味わいになるんです。
 
M_徐々に味わいが変わっていくのが面白いですね。チーズも同じくらいしっかりとしているのでコーヒーの味に負けていないと思います。ブリ・ド・モーは、無殺菌乳からくる豊かな風味のミルク感が残るのでコーヒーとの一体感がすごくあります。
 
Y_口に入れた瞬間は、コーヒーの香りが口いっぱいに広がって鼻まで届くのですが、
いわゆる口内調味をして飲むと、おっしゃるようにミルクとコーヒー牛乳を作っている感じ。最後はミルク感が残ってずっと甘い。
 
M_しっかりチーズの良さが引き立つペアリングだと思います。それでいて、コーヒーの味をしっかり味わうことができますし。
 
Y_私もこのペアリング好きですね。シンプルにブリ・ド・モーの味が好みです。
 
M_次はパルミジャーノ・レッジャーノを。このチーズは包丁でカットしてはダメで。かち割って食すことで香りがより引き立ちます。手でつまむか、ピックで刺して食べたらいいと思います。チーズを食べる時には、一口大の塊ごと口に入れ、さらに口の中で、歯でかち割ってあげると、香りが口の中に充満して鼻から抜け、パルミジャーノ・レッジャーノのフルーティーな香りのニュアンスをしっかりと感じることができます。また塊を頂くことでジャリジャリっとした食感やより余韻の長い旨味をより楽しめます。一口大の塊の大きさはコーヒーの風味の強弱で変えると良いでしょう。

Y_そうなんですね! 意識してみます。そして、このアーモンドがすごくおいしい。口の中でホロホロと解けていくのがチーズとよく似ている。
 
M_パルミジャーノ・レッジャーノには、アーモンドの香ばしい感じが、すごく合うんです。クルミやヘーゼルナッツとは違いますよね。パルミジャーノ・レッジャーノはドライパイナップルみたいな香りがします。2〜3年熟成している間に、フルーティーで華やかな香りが出てくるようになるんですね。このフルーティーな香りが、コーヒーのフルーティーさとよく合うのかもしれない。
 
Y_アーモンドを食べていない状態でチーズだけでコーヒーを飲んだ方が、チーズの明るい果実感のある酸味もキャッチしやすいし、チーズのドライパイナップルの香りがします。
 
M_こうした発見がすごく面白いですね。そして、次は羊の無殺菌乳で作られているロックフォールを。
 
Y_しっかりと塩味がありますね。なめらかな舌ざわりですね。
 
M_約半年くらい熟成しないとこのなめらか感は出ないものです。最低熟成期間は天然の洞窟の中で3ヶ月間なのですが、さらに3か月追熟してから出荷していきます。天然の洞窟の中はだいたい、温度は7〜8℃。湿度が95%以上あり、一年中一定の環境です。ロックフォールの青カビは、洞窟の中で採取した、天然青カビなんですよ。
 
今でも焼いたライ麦パンを洞窟の中に置き、パンを触媒にして生えた青カビでロックフォールはつくられています。メンブリージョという西洋かりんのジャムをつけるとたちまちスイーツになります。羊のミルクの甘さとコクに加えて、ジャムの甘酸っぱさでこのロックフォールの良さが引き立てられます。さらにこのロックフォールにビターチョコレートの削ったのをまぶしても美味しいんですよ。ブルーチーズにチョコレートのカカオ風味がアクセントになっておすすめです。

Y_おいしいしよく合いますね。一緒に食べたほうが絶対いいですね。
 
M_嬉しいです。エポワスはこのまま食べてもいいし、スパイスが入ったビスケットを削り、それをかけて食べても。
 
Y_エポワスは海の幸の味がする(笑)。しっかりした味なのでコーヒーと一緒になってくれない気がします。
 
M_エポワスと合わせるときは、コーヒーにミルクを入れた方が良いかもしれません。コーヒーと合わせるとそれぞれの個性がおとなしくなってしまうようなところがあるのかも。
今回、エポワスを合わせた理由は、しっかりとした味なので、じっくり食事の後にコーヒーを飲むときに一口食べられると満足しそうだと思って。
 
以前、フランスの大会に出場する日本人選手をトレーニングしていた際、調理の課題のエポワスにカフェラテソースにスパイスクッキーやりんごのジャムをいくつか組み合わせていたんです。それがすごく“おいしい記憶”として残っていたのでコーヒーとエポワスの合わせは面白そうだと思ったんです。
 
Y_そうなんですね。エポワスはミルクに合うかもしれませんね。

ちょっとした軽食として、コーヒーとチーズを合わせる面白さ。

M_今回、特に気に入ったペアリングはありますか?
 
Y_いちばん合っていると思ったのが、ロックフォール×「ブラジル サントゥアリオ スル ゲイシャ ナチュラル 嫌気発酵」。それと、朝の時間帯にご提案いただいた「フロマージュ・ブラン+フルーツサラダ×「パナマ デボラ イルミネーション」も好きでした。
 
M_チーズ目線でいくと、私はジャパンブルー×「インドネシア ウーマン イサク オランウータンコーヒー」がおいしかったです。やっぱり、ブルーはカフェラテに合うな、と。
 
Y_単体では合わないけれども、チーズとコーヒーの橋渡しとしてアーモンドやドライフルーツ、ジャムを少し加えるだけで、合わなかったものもすごく合う。そう思うと、コーヒーは「ワインとチーズ」と並ぶほどの面白い組み合わせが見つかるかもしれませんね。
 
M_コーヒーは抽出方法や飲み方によって、フレーバーが変わってくるので無限大にペアリングができそう。
 
Y_新しい発見があるから、正解も間違いもなさそうですよね。この2つをしっかりペアリングしている方も少ないと思うし、可能性が広がりますね。

M_だいたい、みなさんワインとチーズですし。最近は日本酒とチーズというペアリングを楽しむ方も徐々に出てきました。フランスやイギリスだと紅茶とチーズという合わせを楽しむのがポピュラー。だからこそ、コーヒーを合わせていくのは、これからすごく面白いかもしれません。コーヒービーンズが入ったチェダーがアメリカにありますし。コーヒーはスイーツと合わせるイメージがあるけれども、甘いものが苦手な方もいると思うので、ちょっとした食事や軽食がわりに組み合わせを楽しむのもすごくいいかな、と。
 
Y_ですよね。コーヒーは発酵を取り入れて、世界中でおいしいコーヒーが作られていますし、そういう意味でも、合うに決まっている。アルコールを飲まない人は、多分飲む人よりも、チーズを食べる機会が少ないと思うんです。お酒の席でコーヒーを片手にチーズを楽んでもいいかもしれません。
 
M_確かに、フランスではチーズは食後に食べるものなのでデザートがわりに出てくるので。そういうときにコーヒーと合わせたらいいですよね。

EVENT PROFILE
バリスタと料理家/コーヒーとチーズ、魅惑のペアリング。

 
本企画がリアルに体験できるスペシャルイベントを「OGAWA COFFEE LABORATORY 下北沢」で開催いたします。当日は、本編でご紹介したコーヒーとチーズのペアリングコースの実食に加え、フロマジェ村瀬さんによるチーズアートも展示。トークパートでは、自宅でペアリングを楽しむコツやチーズのカットについても学びます。魅惑のペアリングを味わう、貴重な機会。皆さま、奮ってご参加ください。
 
日程:11月17日(金)18:30~20:00 (受付18:00~18:30)
場所:OGAWA COFFEE LABORATORY 下北沢
〒155-0031 東京都世田谷区北沢3丁目19−20 reload1-1
登壇者:THE CHEESE ROOM フロマジェ 村瀬美幸様
小川珈琲 チーフバリスタ 吉川寿子
参加費:5,000円 定員:20名
予約:Peatix(https://ocl231117.peatix.com

COFFEE PROFILE
パナマ デボラ イルミネーション
標高1,900mとパナマでも最も高い土地に位置する農園のひとつ「デボラ農園」がつくるコーヒー豆。ワインの醸造プロセスを取り入れ、二酸化炭素を充填させた密閉容器で発酵を促した。その作用でパイン、グリーンアップルのような爽やかかつ甘さの余韻が残る。
COFFEE PROFILE
インドネシア ウーマン イサク オランウータンコーヒー
インドネシアのスマトラ島北部・アチェ州の山岳地帯にある「ウーマンイサク農園」。絶滅危惧種のオランウータンが住む森の環境保護、生産者が暮らす地域を豊かにすることを目指したプロジェクトから生まれた、未来への貢献度が高いコーヒー。スパイシーな風味、キャラメルのような甘さが際立つ。
COFFEE PROFILE
ブラジル サントゥアリオ スル ゲイシャ ナチュラル 嫌気発酵
ブラジルで最も高品質なコーヒーを生み出す生産地の一つと知られるカルモ・デ・ミナス地区にある「サントゥアリオ スル農園」。高品質のゲイシャ種のナチュラルプロセスのコーヒー。アーモンドバナナやパイナップル、メロンなどのトロピカルフルーツを思わせる風味が特徴。
CUISINE PROFILE
時間をイメージした、3種類のチーズプレート
チーズアートの第一人者である村瀬さんが一日のシーンをイメージして、コーヒーに合わせたチーズプレートを特別に制作。よりおいしくいただくための副材料や食べ方について多様な提案を盛り込んだ。また、近年おいしさが際立つ注目の国産チーズの魅力、チーズを軸とした他国の食文化を発信。チーズの風味や食べごろのバランスを意識しながら、奥行きのあるプレートを届ける。