コーヒーと食。その未知なるペアリングの可能性を、料理家をゲストに迎え探っていく「バリスタと料理家」。第5回目のゲストは、宗教や食事のスタイルが異なる人々であっても食卓を共有できる料理として、レバノン料理(レバニーズ)を提案する長野浩丈さんです。今回のテーマはスパイスやハーブづかいが印象的なレバニーズ。イブリックを使う中東スタイルのコーヒーとのセッションが始まります。

レバノン料理に合わせたい、コーヒードリンクとは?

−− ハーブやスパイス、胡麻ペースト、ニンニク、レモンをふんだんに使い、野菜を中心にしたレバニーズ。合わせて用意された飲み物も、ワインやハーブやスパイスを効かせたコーディアルが中心。コーヒーを合わせるイメージは湧きづらいかもしれません。
 
長野浩丈(以下N)_朝と昼のスタイルで営業しているため、モーニングにはコーヒーをセットにしています。ただオープン当初は料理と一緒に提供していたのですが残す人も多くて、今では食後に提供するようになりました。レバニーズにコーヒーを合わせるイメージは、あまりピンときませんね。
 
吉川寿子(以下Y)_長野さんの作る料理がレバノン料理と聞いて、現地で飲まれているものは何かと考えた時にイブリックしかないなと。ジェズベとも呼ばれるイブリックはトルココーヒーを淹れるための器具のことで、銅などの金属製で長い柄がついているのが特徴です。ジェズベはトルコ語、イブリックは英語。元々コーヒーは薬の延長線上にあって、煎じて飲むのが世界で一番古いコーヒーの淹れ方ですから、それに当てはまります。

N_道具としても美しい。ただ、これで淹れてもらったコーヒーを25年くらい前にインドネシアで飲んだことがあって。はっきりいって、まずかった記憶しかないですが(笑)。これだけ細かく挽くということは、鮮度のいい豆でないといけないんでしょうね。
 
Y_馴染みのない私たちからすると、飲み方が分からないですよね。けれど今、世界に広めるべく啓蒙活動をしているトルコ人バリスタのトゥルガイ氏がいて、彼は2013年イブリックコーヒーの世界チャンピオンで、私たちも昨年、彼から直接習ったばかり。コーヒーはミルの刃がくっついているくらいの状態でスパイスと同じくらい細かく挽いて、水と一緒にイブリックへ入れて火にかけます。最初は強火で1分抽出。その後弱火にして、さらに45秒火にかけます。トータルで1分45秒になったら、イブリックをカップに近づけて、コーヒーの粉も全部カップにそそぎます。その後、飲みやすい温度にし、コーヒーの粉をカップの底に沈殿させるため、5分待ちます。5分経ったら、表面の小さな気泡を息でふーっと避けながら飲んでみてください。それが飲み方のお作法で、現地だと傾けたときにコーヒーの粉が引っかかって口に入ってこない、専用のカップもあります。甘いスイーツと口をすすぐ水を一緒に専用のトレーに乗せて提供するのが、本来のもてなしです。

カヌレと合わせてイブリックをストレートで。

N_今までの概念と違いすぎて驚きました。味もまったく別物でおいしい。なぜこんなクリアなんでしょう。
 
Y_コーヒー自体もスペシャルティグレードで、フルーティでクリアなものを使っています。まずはストレートのイブリックを味わってほしくて、デザートのカヌレを先にお願いしました。スモーキーな香りを纏わせたカヌレに合わせて用意したのは、ボディ感があって香り高いゲイシャ種。ブラジル・サントゥアリオ・スル農園の豆で、発酵した独特の香りを持つアナエロビックファーメンテーションで精選したもの。コーヒーの果肉を着けたまま樽に入れて、外気を遮断してイーストで発酵させる精選方法は、ワインの製法を取り入れたものです。

N_カヌレのスモーキーなキャラメルの香りとコーヒーとが、本当によく合う。雑味がない香りもボディも強いけれど、すっきりしています。見た目とのギャップもあって、エスプレッソとは全然違う。下にいくほど酸味もしっかりあって。
 
Y_トルコではスパイスを一緒にいれて抽出することもあるようで、イブリックの大きな特徴で他の器具ではあまり聞いたことがないこと。ただ味をつけることは目的ではなくて、風味だけを纏わせる。スパイスを入れると、さらに広がりを感じると思います。現地では各家庭にレシピがあって、その家の味があるそうです。口の中に微粉が入ってくるようになったら飲み終わりです。

レバニーズには酸味が味を支えるモクテルを合わせて。

Y_続いて用意したのは、チキンとファラフェルミックスに合わせたコーヒードリンク、モクテルです。
 
N_コーヒーをモクテルに仕立てるんですね。
 
Y_以前、お店に伺ったときに知ったのが、レモングラスを合わせた阿波番茶でした。乳酸菌発酵茶ならではの酸味が爽やかで、けれど料理を邪魔しない。これはぜひ使ってみたいと。同じサントゥアリオ・スル農園のアナエロビックファーメンテーションの豆を使うのですが、先ほどの7gに比べて今度は12gと倍近い量を使い、濃いめのコーヒーを淹れます。抽出の際に入れるのは軽く潰したカルダモンとシナモン。イブリックは抽出時間が5秒違ってくるだけで味が全然変わってくるのですが、さらに15秒長くしっかりと抽出。淹れ終わったらペーパーフィルターで漉して、オイル分と微粉をカットしたのち急冷。フレッシュミントを煮出したミントシロップ、水出しの阿波番茶、トニックウォーターを加えてよく混ぜたあと、そこにミントの葉を入れて凍らせた氷を入れ、冷えたコーヒーを注ぎ、シナモンスティックをのせれば完成です。

N_すごくいい感じにまとまって、クラフトコーラのような複雑味のある味わい。プレートもコーヒーも、お互いに邪魔しない。自分たちが作るプレートにはコーヒーは合わないと思っていたけれど、これはおいしい! ちゃんとコーヒーも生きてます。濃そうで淡い。酸の効いている料理によくあう。レシピを作りあげる吉川さんのインスピレーションはどこから来るのでしょう?
 
Y_フードと合わせるときは使われている食材、プレートからヒントを得たいと思っています。レバニーズのプレートにも欠かせないミントは使いたかったし、スパイスも取り入れたかったんです。少ししか使っていないトニックウォーターや、阿波番茶の酸味がいい役割を果たしてくれました。逆に長野さんの料理へのこだわりは、なんですか?
 
N_元々フレンチ出身なので、雑味のあるものが好みではなく、酸味があるものが好きという点でしょうか。それはレバニーズにも共通していて、柑橘にはもちろん酸があります。ハーブにはフレッシュさと酸、そして青い香り。オリーブオイルにも綺麗な酸がある。料理はちゃんとしたボディがあれば、酸があると裏支えになる。スペシャルティコーヒーも焙煎で酸を強調するのではないでしょうか。

Y_コーヒーにも酸の要素は欠かせません。酸化するの酸ではなくて、甘みを伴う上質な酸。いいコーヒーにはフルーツみたいな酸があります。おいしいものは裏側で酸が支えているから、とても大切なもの。同時にイブリックは歴史のある淹れ方なので、大事に飲みたいと思っています。淹れやすいかといわれたら淹れにくい(笑)。細かく挽けるミルも、専用の器具も必要。とはいえコーヒーを淹れる特別感や5分待つ時間もよくて。お客さんの前で淹れられたらいいですよね。
 
N_そのプレゼンテーションもすごくいい。こんなにも進化したイブリックを味わえたことも、レバニーズやカヌレとの相性のいいコーヒーとの出合いもよかった。面白い体験をありがとうございました。
 
Y_たくさん飲むものじゃないから、空間や場所、時間も合わせて楽しみたいですね。

COFFEE PROFILE
ブラジル サントゥアリオ スル ゲイシャ ナチュラル 嫌気発酵
Brix値を揃えて収穫する、サントゥアリオ スル農園のコーヒーは、アロマとフレーバーのインパクトが抜群。このゲイシャも濁りのない濃厚な甘さと瑞々しい果実ジュースのような爽やかな酸味のバランスが絶妙。 嫌気性発酵由来のフレーバーは強すぎず、初めてのファーメンテーションコーヒーとしてもおすすめ。

抽出レシピ
コーヒー豆7gを極細挽きにしてイブリックへいれる。60℃のお湯70gをいれ、木べらで10回かき混ぜる。スタンドにイブリックをセットし、強火で1分間火にかける。1分経ったら弱火にして45秒待つ。フォームがイブリックのくびれの部分に達したら、カップへコーヒーの粉ごと移す。5分ほど沈殿するのを待ってカップに注ぐ。
COFFEE
レバノンの碧い海
おすすめのコーヒー:中深煎りで、アナエロビックファーメンテーションの精選によるコーヒー
おすすめの抽出器具:イブリック

〈コーヒーの抽出〉
【分量】
Ⓐコーヒー(コマンダンテ10クリック)…12g
Ⓑお湯(60cc)…80g
シナモン(スティック)…1/2本
クローブ(ホール)…1粒
【抽出手順】
❶コマンダンテでコーヒーを挽く。
❷イブリックにⒶ、Ⓑ、シナモン、クローブを入れ10回撹拌する。
❸中火(弱火より)で1分15秒。加熱する。
❹1分15秒たったら弱火にする。
❺2分15秒で沸き上がるようにコントロールする。
❻抽出が完了したら、ペーパーで濾す。
❼漉したコーヒーは、急冷する。

〈水出し阿波番茶の作り方〉
【分量】
阿波番茶…10g
水…750ml
【作り方手順】
❶阿波番茶をお茶パックに淹れる。
❷水に❶の阿波番茶をいれ、常温で5時間抽出する。
❸お茶パックを取り出す。

〈ミントシロップの作り方〉
【分量】
フレッシュミントの葉…50g
グラニュー糖…100g
水…200ml
シナモン(スティック)…1本
【作り方手順】
❶ミントを洗い、茎を取り除く。
❷鍋にミントの葉、水、グラニュー糖をいれ火にかける(中火)。
❸沸騰直前に火から降ろす。
❹❸の粗熱が取れるまでまつ。
❺ペーパーで濾す。
❻漉したシロップにシナモンスティックをいれ、冷蔵庫で保存。

〈アレンジ〉
【材料】
イブリックコーヒー…55ml
阿波番茶(水出し)…40ml
ミントシロップ…20ml
トニックウォーター…20ml
ミント氷…3〜4個
【作り方】
❶グラスに、ミントシロップ→阿波番茶→トニックウォーター半量をいれよく混ぜる。
❸ミント氷をいれる。
❹冷えたイブリックコーヒーを氷に伝せるようにゆっくりといれる。
❹シナモンスティックを載せる。
CUISINE PROFILE
チキンとファラフェルミックス
チキンとファラフェルミックス (¥2,300)は、京都・清水五条、高瀬川沿いにある「汽【ki:】」のランチメニューからの一皿。チキンはスパイスに漬け込みグリルしたもの。添えられたピタパンの内側にフムスとアリオリソースを塗り、すべての具材を詰めて頬張ります。ピタパンがグレーなのは、調理ででた野菜の皮や切れ端を薪窯で灰にして練りこんでいるから。エシカルの意識の現れです。