今回の特集は、食とコーヒーのペアリングを探る「バリスタと料理家」の特別編。「OGAWA COFFEE LABORATORY 高輪」を舞台に、前後編の2回にわたってお届けします。
2026年3月28日、ニュウマン高輪「MIMURE(ミムレ)」にオープンした「OGAWA COFFEE LABORATORY 高輪」。約4,000㎡の広大な空間に、コーヒーをはじめ、ベーカリー、ショコラトリー、デリカテッセン、ジェラートなど、12のラボラトリーを展開。それぞれのジャンルが有機的につながりながら、食の新たな楽しみ方や味わいの先にある体験価値をひらいています。
前編では、ブリュワリー+ビアバー「TAP:020 The Brewing Lab」とワインバー「GLS:125 The Swirling Lab」を訪れ、クラフトビールとワイン、それぞれの個性を引き出すフードとの“おいしいペアリング”を紹介します。
味や香りを緻密にデザインした多様なクラフトビールを。
「TAP:020 The Brewing Lab」の最大の特徴は、その場でビールを造り、フレッシュなビールを提供するというもの。9基のタップを備え、多彩なスタイルのクラフトビールを提供している。醸造設備が客席から見えるようになっている臨場感もまた、ビールラバーの心をくすぐる。
ビール職人は、ベック・グレゴリー・ホアンさん。アメリカ・アリゾナ出身の彼は、個人的に家庭でクラフトビールをつくっていた経験があるほどの研究熱心なアティチュードの持ち主だ。日本に長く暮らすうちに日本酒を含む日本の発酵文化についても深掘りをしていたという。そうしたバックグラウンドを持つベックさんが、クラフトビールというまた別の醸造文化をどんなふうに解釈し、表現するのか。そうした観点においても、面白さが光る。アメリカ、ドイツ、オーストリアなど各国から厳選した上質な麦芽・ホップを取り寄せ、麦芽とホップの組み合わせにこだわり、酵母、発酵温度、時間を細やかにコントロールする。その一連の作業を深く追求することで、ビールの味や香りを緻密に設計している。
香ばしいアンバーエールと、酸味を感じるカンパーニュ。
ビールのみならず、食への造詣が深いベックさんが考えたペアリングは、ショップで発酵させた自家製酵母と、石臼で挽いた小麦を使ったパンを提供するベーカリー「PAN:013」の季節限定「天然酵母発酵カンパーニュ」と「no.04 BEACH CAMP Amber Ale」だ。ベックさんが、掛け合わせの妙味について続ける。
「アンバーエールは麦芽が主役。まろやかな香ばしさやコクをじっくり楽しむタイプのビールです。そうした味わいがカンパーニュの味わいを一層、深めてくれます。このカンパーニュの特徴は、なんといっても味の複雑さが魅力。小麦の味わいと、ゆっくりした発酵による香りと酸味を楽しめます。さらに、パンの真ん中がもちもちした食感で歯ごたえがいいんです。ローズ酵母といって、バラの表面などに自然に存在している酵母を採取し、培養してゆっくり発酵させることで、香りと酸味を引き出すことができます」
ビール単体のおいしさだけでは得られない、ペアリングならではの奥深い味わい。パンとビールが響き合うことで、五味が複雑に重なり、味覚の新たな表情が引き出される。
コーヒーとチョコレートのペアリングに寄せた、ひとひねりのある味わい。
そして、もうひとつのペアリングは「ガーナミルク 50%」と「no.05 DEEP GRATITUDE Coffee Stout」。チョコレートはショコラトリー「CCL:047 The Tempering Lab」によるもの。世界各地の産地から厳選したカカオ豆を店内で焙煎し、加工まで一貫して行うBean to Barのスタイルをとっている。そして、注目したいのは、カカオ50%という一般的なミルクチョコレートよりもカカオの割合が高めなところ。ミルクのまろやかさ、甘さを残しながらカカオの風味もしっかり感じられる奥深い味わいだ。繊細な口溶けのミルクチョコレートには、“コーヒー感のある一杯”を合わせた。
「コーヒーとチョコレートのペアリングは多くの人に好まれているので、そういうイメージでコーヒースタウトを合わせてみました。焙煎したコーヒー豆を粉砕せず、ホールビーンズをビールに直接4日間浸漬して、コーヒーの香味成分を穏やかに移す方法で作ったものです。ミルクチョコレートをスタウトで溶かしていくように飲んでもらいたいですね。カカオ自体に酸味があり、私が造るビールも比較的酸味が強いので、酸味が強くなり過ぎないミルクチョコレートとの相性がとてもいいんです」
ベックさんの言葉通り、甘味と苦味の合わせを反復するのが心地よい。
「ビターチョコレートになると、苦味が強くなり過ぎてしまいますからね。このミルクチョコレートは、口の中に残りません。ビターチョコレート好きの人も楽しめる味だと思います。ちなみにビールの名前に“DEEP GRATITUDE”(深い感謝)というメッセージを込めています。コーヒー豆を育ててくれた人の感謝の気持ちと、私のビールを買ってくれたお客様への気持ちを表現しました」
フードに合わせて、エキスパートがワインを選ぶ。
続いて、ワインバー「GLS:125 The Swirling Lab」へ。ワインを中心とした「醸造酒と食のペアリング」を探究するラボだ。店名の「125」は、ワインをグラス1杯125mlで提供すること。そして「Swirling」とは、ワイングラスをゆっくり回す動作のことをいう。グラスの中でワインを動かすことで空気に触れる面積が増えるという特性がある。そんな“香りが立ち上がる瞬間”を大切にしている。グラスワインのラインナップは10種類ほど。800円程度から2,000円程度まで幅広く用意されていて、様々な好みに対応しているのも嬉しいところ。
さらに同じフロアにデリカテッセン「DELI:365」があり、素材の味や食感を楽しみながら、いくつかの料理を自分の好きな組み合わせで選ぶことができて、注文したメニューはワインバーで楽しめる。ちなみに、テーブルチャージは設けていない。飲みたいワインとフードをシンプルに味わえるのもいい。「買い物の途中にサッと1ペアリングしたい」「2軒目の締めに立ち寄りたい」「クラフトビールの後に、ワインが飲みたい」。そんな気分のときにも気軽に足を運べる。
エスカベッシュの酸味に埋もれない、存在感のあるオレンジワイン。
ワインを中心に接客を担っているソムリエの増子基さんにおすすめのペアリングを尋ねた。
「今回、私が考えたのは『メカジキのエスカベッシュ』と北イタリアのオレンジワイン『アランサット』のペアリングです。『アランサット』はイタリア・フリウリで生まれたオレンジワインです。自然農法で作ったブドウを手摘みで収穫し、真摯にワインに向き合っている造り手によるもの。ピノ・グリージョのような少し色味のある白ブドウを使い、果皮や種を果汁と一緒に40日間漬け込む赤ワインの製法で造られています。非常にきれいな味わいですし、オレンジの色目がとても鮮やかで美しい。白ブドウを使ってこのような色目を出すところに醸造家のこだわりや美意識を強く感じます。柑橘のような爽やかな香りを纏ったワインなので、レモン果汁でさっぱりと酸味付けされたエスカベッシュととても相性が良いと思います。メカジキの身が締まっていて、とても美味しいですし、少し苦味を感じられるオレンジワインが引き立ちます。私の感覚では白ワインを合わせると、ちょっとワインの味が後退してしまうように思うので、オレンジワインがベストです」
20年以上ワインと深く関わり、イタリアやフランスの飲食店で実績を積んだ増子さんの経験値の深さが、感じられるペアリングだ。
大人が唸る、赤ワインとコーヒージェラートの重なり。
締めくくりは、ラボの一つであるジェラート店「GLT:196 The Texturing Lab」がある。ここは、“食感を探究する実験室”。ベースとトッピングを自由に選び、目の前で完成していく過程まで楽しめる。
「小川珈琲の『オランウータンコーヒー』を使ったコーヒージェラートと『アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ』のペアリングをぜひ、体験していただきたいなと。スマトラ島で絶滅の危機に瀕したオランウータンの保全と、コーヒー生産者の支援を一杯のコーヒーにつなげる取り組みをしています。このコーヒーのコクを活かしたミルクベースのジェラートは、素材の活かし方が研究し尽くされていて、ミルク感が前に出過ぎないところも魅力。合わせたいのは、軽やかに飲める赤ワインです。アマローネは、収穫したブドウを乾燥させてから発酵させることで酸味を抑え、コーヒーやチョコレートのようなフレーバーを引き出したワインです。コーヒーと相性のよいワインにジェラートの糖分を合わせることで、甘みがより深いものに。最後にはワインのほのかな渋みとコーヒーの苦みが重なり、自然な余韻を残します」
ジェラートと赤ワインのペアリングは、深い余韻を静かに感じられる“大人の嗜み”と言っていいかもしれない。「OGAWA COFFEE LABORATORY 高輪」を訪れ、ぜひ、気になるラボを散策し、はじめての体験を重ねてみてほしい。
特集の後編は、コーヒーとのペアリングをお届けします。
営業時間:7:00〜23:00
URL: www.oc-ogawa.co.jp/ocl-takanawa/
Instagram:@ogawacoffeelaboratory_takanawa









