生産地の特徴的な風味が表現された“スペシャルティコーヒー”。私たちの暮らしにも広く浸透しましたが、生産者たちの向上心はまだまだ高まるばかり。新しい品種や、特殊な栽培・精選方法が次々と開発され、日ごとに高品質化、多様化しています。そのポテンシャルと個性を余すことなく引き出し、再現性を保ちながら理想的な味わいに仕上げることを目的とした、コーヒー専用ツールが近年、続々と登場。抽出器具もブリューイングも、スペシャルティコーヒーと同じように進化、多様化しています。
今回の特集では、最新のコーヒーブリューイングに対応する機能を備えたコーヒーツールを「小川珈琲」のチーフバリスタ、吉川寿子さんが紹介。定番から最新モデルまで、約40種類の器具を取り揃える“体験型ビーンズサロン”、「OGAWA COFFEE LABORATORY 下北沢」で、プロのバリスタたちが愛用するコーヒーツールの中から、家庭で美味しいコーヒーを淹れるために欠かせない、“計る”、“挽く”、“注ぐ”、“淹れる”ためのツールを選んでもらいました。
抽出の再現性を高める、工業クオリティのスケール。
「スペシャルティコーヒーが知られるようになって、20年ぐらいが経ちました。認知度が上がり、コーヒーの品質が高まるにつれ、追いかけるようにバリスタのスキルも上がっています。そして、美味しいコーヒーを淹れるための機能に特化した、コーヒー専用ツールが増えました。代表的なのはスケールですね。この〈acaia〉の『pearl』は、いわゆる、キッチンスケールなんですが、コーヒー専用。何が違うかというと、コーヒーをより美味しく入れるために必要な数値をすべて計測できるんです。重さはもちろん、時間や流速がスケールに表示され、安定した抽出をアシストしてくれます。工業用スケールメーカーが開発しているので、感知スピードと精度は実験室グレードです。バリスタがコーヒーを抽出する際、特に重要視しているのが再現性。そのためには“計る”ことがとても大事。粉量、湯量、抽出時間といった、数値を厳密に管理する必要があるんです。〈acaia〉のスケールは、専用アプリと連動させることで、トレーニングができたり、抽出記録、レシピデータを世界中のユーザーたちと共有できたりするのも面白いところです」
世界中のトップバリスタたちが認めた、ケトルの新定番。
「コーヒーを抽出する時は、“流速”や“流量”を意識することが重要。そのコントロールに影響するのがケトルです。バリスタには、それぞれに理想的な流速や流量があって、理想のケトルも様々。以前と比べて、種類も豊富になり、選べる選択肢が増えました。私のお勧めは〈Fellow〉の『Stagg EKG』。人間工学に基づいて、コーヒー抽出用に設計された電気ケトルです。お湯を真下に落としやすく、注湯の動きや流量を繊細にコントロールができるのが特徴。「注ぐ」段階から理想の味わいにアプローチできるとあって、今、世界のトップバリスタの多くが〈Fellow〉を使ってます。素早い加熱、簡単で細やかな温度設定も魅力です。従来の電気ケトルは、湯を沸かしている途中で設定温度を変えられなかったのですが、こちらは、途中でも設定の変更ができるんです。バリスタはコーヒーの状態に合わせて、例えば蒸らしの膨れ上がり方を見て、1℃単位で温度を調整するので、とても便利な機能です。あとは、見た目が可愛いのもいいところ。最近はピンクや白など、カラーバリエーションも増えて、選ぶ楽しみもあります。電気ケトルは、手に馴染むかどうかが大事なので、自分の使いやすいものを選ばれるのが一番いいと思います。「OGAWA COFFEE LABORATORY 下北沢」では、〈Fellow〉以外のケトルもたくさん取り揃えているので、ぜひ実際に手に取って使い心地を試してみてください」
コーヒーのポテンシャルを引き出すハンドグラインダー。
「『いいコーヒーツール』を揃えたいと思っているなら、優先してコストを費やすべきは“挽く”工程。まずはグラインダーからいいものを手に入れてください。それだけで、家庭で淹れるコーヒーがかなり美味しくなります。最近は、高性能なハンドグラインダーが注目されていて、今回紹介する〈COMANDANTE〉のハイエンドモデル『C40 NitroBlade MK4』は、常に入手困難なほどの人気です。手挽きですが、プロが使う業務用の自動挽きグラインダーに引けを取らない“粒度の均一性”や“微粉発生の少なさ”が特徴。さらに設定できるメッシュの幅が広く、コーヒーの個性にあわせた調整が簡単にできるんです。あと、このモデルは歯の強度が高いのもポイント。スペシャルティコーヒーは、そのコーヒーのキャラクターを感じやすくするために、浅煎りにすることが多いのですが、浅煎りのコーヒーはとても硬いんです。コーヒーは、焙煎が深くなれば深くなるほど、水分が抜けて砕けやすくなるのですが、最近主流の浅煎りはその逆。私は手頃な価格のセラミック製グラインダーで浅煎りのコーヒーを挽いて、壊してしまったことがあります。セラミック製グラインダーの刃はそれほど鋭くないので、コーヒー豆を押しつぶしているような感じ、それに対して、特殊な加工で強化されたステンレス鋼ニトロブレードを採用した『C40 NitroBlade MK4』はサクサクと切るような感覚です。高価ですが、プロが使う自動挽きグラインダーに比べれば価格は1/3〜1/4程度。業務用品質の粒度分布のコーヒーが自宅でも再現できるならば、お得と考える人が多いようです」
香りを最大限に引き出す、革命的ブリューイングデバイス。
「ハンドドリップで使うツールで、最新のものは〈Nucleus〉の『paragon』ですね。新しい発想、技法を備えた、ブリューイングデバイスです。スペシャルティコーヒーが世の中に広まって、生産者たちは、他の農園とは違うオリジナリティの高いコーヒーを目指すようになりました。特殊な加工プロセスと言われていた、ファーメントプロセス、いわゆる発酵を取り入れる農園が増えています。嫌気性発酵、好気性発酵の他に、最近ではイーストを添付することで、自然には生まれない香りをつけることもあり、香り特性の強いコーヒーが増えています。その香り特性を最大限に引き出すことを目的に開発されました。『paragon』を使うと通常の淹れ方では揮発してしまう香気成分を最大40%、液体に留めることができます。仕組みは、-10〜-20℃に冷やしたチリングボールを、ドリッパーの先端5mm以内にセット。ドリップ直後のコーヒーがチリングボールに触れ、急冷“Extract Chillig(エクストラ チリング)”されることで、香気成分の揮発を抑えるというもの。香りと質感が豊かになり、これまで表現しきれなかった、コーヒーの個性を引き出せるようになりました。香りをより強く楽しんでほしいコーヒーの抽出で効果を発揮します」
美味しいコーヒーを淹れるためのメソッドが学べる「実験室」。
「今回は、スペシャリティコーヒーの高品質化、多様化に合わせた、最新のブリューイングとそれに対応するコーヒー専用ツールを紹介しましたが、目指す味わいやライフスタイルによって、ツール選びは、使い手それぞれです。『OGAWA COFFEE LABORATORY 下北沢』は、気になっているツールを家庭で導入する前に試せるお店。高価で高性能なものから、シンプルな定番まで、“家庭で使いやすい”ことを基準に、約40種類器具を揃えていて、そのすべてを実際に使って体験できます。例えば、グラインダーなら自動挽き(オート、セミオート)から、手動挽きまで、今回は紹介していなコーヒーメーカーや、マグカップなどもご案内できます。また、店内の蔵の中には、常時22種類のコーヒー豆に加えて、その時、一番おすすめの『フィーチャードコーヒー』を飲みごろの状態で保管していますので、ぜひお好みのコーヒーを探してみてください。店頭で提供するほか、豆の持ち帰り、さらには、店舗でのリザーブも可能。いつでも欲しいタイミングで、飲みごろに管理されたコーヒーをお持ち帰りいただけますので、ぜひお試しください」
電話番号:03-6407-0194
営業時間:9:00-20:00 (L.O.19:30)
URL:www.oc-ogawa.co.jp/ocl-shimokitazawa/
Instagram:@ogawacoffee_laboratory