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栽培から抽出まで、美味しいコーヒーを
楽しむために知っておきたいこと、すべて。

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粉砕

挽き目が味わいを左右する。

自分好みの味わい探しを楽しもう。

 煎り豆を、そのままお湯に浸しても美味しいコーヒーには仕上がらない。器具を使い、豆を粉砕して粉状にすることで、お湯が浸透してコーヒーの成分が抽出されるのだ。大事なのは、同じコーヒー豆でも挽き目の違いで味わいが大きく変わるということ。
 味わいを左右する重要な工程だが、誰にでも手軽に自分好みの味わい探しができるのが粉砕の面白み。粉砕に使う器具、グラインダーは、その多くがメモリを変えるだけで簡単に挽き目を調整できるうえ、粉砕の違いによる味わいの差はわかりやすい。この章からは、ご自身で再現できる内容になるので、ぜひ毎日のコーヒーがより美味しくなるよう、ご家庭で実践してもらえると嬉しい。コーヒーの抽出まであと少し……。

[fig.01]

煎り豆をグラインダーに投入し、粉砕するバリスタ。

豆の挽き方と味わいの特徴。

 コーヒーの抽出では、器具に対して推奨された挽き目がある。挽き方には目安となる挽き目(挽き具合)があり、それによって粒度(粒の細かさ)が変わる。粉売りのレギュラーコーヒーの場合は、想定された抽出器具(多くはハンドドリップやコーヒーメーカー)で美味しく飲める挽き目で挽かれている。

挽き目
特徴
極細挽き
抽出効率が1番高く、短時間で多くの成分を抽出できる。コクが深く、とても濃く強い味わいのコーヒーを抽出できる。高温、高圧で抽出する場合に向いている。
推奨抽出方法:エスプレッソなど
細挽き
抽出効率が2番目に高く、濃い目のコーヒーが抽出できる。低温でじっくり抽出する場合に向いている。
推奨抽出方法:コールドブリュー(水出し)など
中細挽き
コーヒー抽出のベーシックな挽き目になる。一般的に売られている粉はこの粉砕度合いが多い。
推奨抽出方法:ハンドドリップ、コーヒーメーカー、エアロプレスなど
中挽き
中細挽きよりはやや粗い挽き目。中細挽きより、少し抽出効率が下がるので、高温抽出や味の強いコーヒーを軽く抽出する場合に向いている。
推奨抽出方法:サイフォン、ハンドドリップ、コーヒーメーカー(味が強いコーヒーの場合)
粗挽き
抽出効率は一番低い。直接お湯にコーヒーを漬け込む抽出に向いている。
推奨抽出方法:フレンチプレス、パーコレーター

[fig.02]

挽き目とその推奨抽出方法

 各メーカーやロースターで表記に差異があるが、粉売りのレギュラーコーヒーは「中細挽き」か「中挽き」に該当するものが多い。上記[fig.02]は、あくまでスタンダードに抽出をする場合の推奨方法。バリスタはその日のコーヒーの状態や抽出の条件に合わせて挽き目を決めていることが多く、作りたい味わいに向けて調整している。

挽き目と抽出方法のマッチング。

 抽出において、味わいを変える要素は多いが、その中でもっとも影響の大きな要素が挽き目だ。例えば、同じ粉量、湯量、時間で「細挽き」「中細挽き」「粗挽き」を浸漬抽出した場合、味の濃さは「細挽き」が1番濃く、次いで「中細挽き」、そして「粗挽き」は1番薄くなる。挽き目が細かくなれば、コーヒーがお湯に触れる表面積が大きくなり、抽出される成分が多くなるため、濃くなるのだ。また、コーヒーはお湯に接触している時間も味に影響を与えるのだが、これは次回の「抽出編」で詳しく解説をする。

 使用器具と挽き目のミスマッチは何を引き起こすか? 抽出方法の代表であるハンドドリップを例にしてみよう。推奨は「中細挽き」〜「中挽き」であるが、「細挽き」で抽出してみる。蒸らしの時点で、コーヒーの粉はよく膨らみ一見が問題ないように見えるが、ペーパーフィルターの目(メッシュ)にコーヒーの粉が詰まりはじめ、フィルターをろ過するスピードが落ち、トータルの抽出時間が伸びてしまう。仕上がったコーヒーは苦味と渋みを強く感じ、舌の上に渋みやザラツキを感じる(過抽出)。コーヒーが持っている甘みや酸味よりも、苦味や渋みの成分が多く移行するため、コーヒーの個性を感じにくくなってしまう。では「粗挽き」で抽出してみる。蒸らしのお湯抜けが良く、膨らみが悪くなる。ろ過されるスピードも速く、液色が薄くなる。コーヒーの成分がお湯に移行する時間が短いため、抽出された味わいの総量が少なく、出るべき美味しさが十分に引き出されない(未抽出)。
 このように、器具にあった挽き目でなければ、ロースターが伝えたい美味しい味わいから、かけ離れてしまうことがある。美味しいコーヒーへの近道は抽出のスキルアップより、適正な挽き目調整にあるかもしれない。

[fig.03]

店ではコーヒーの状態や焙煎度合い、抽出方法によって、粒度(メッシュ)をコントロールしている。

グラインダーは刃が命。

 粉砕をする器具、グラインダーは、一般的に、フラットカッター、コニカルカッター、ブレードグラインダー、ロールグラインダーなどの刃の形状違いでタイプを分けることができ、それらの中でもさらに、刃の素材、回転スピードなどの違いも味わいに影響する。

 フラットグラインダーは家庭用の電動グラインダーなどに使われていることが多く、ディスク型の2枚の歯が向かい合って回転していて、その間をコーヒーが通り粉砕されていく。粉砕されたコーヒーの粒形は細長い直方体に近く、サイズが比較的均一になりやすい。そして微粉が少ないため、雑味が出にくいと言われる。

 コニカルグラインダーは、手挽ミルやエスプレッソ用のミルに使われていることが多く、片方の歯が円錐状になっていて、固定された歯と回転する円錐状の歯の間をコーヒーが通り粉砕されていく。粉砕されたコーヒーの粒形は多角形になり、表面積が多く、抽出効率がよくなり、ボディ感が出やすいと言われる。

 この2種の粉砕度合いは、グラインダーの挽き目ダイヤルに連動して、刃と刃の距離をコントロールしている。調節の自由度が比較的高いので、味わいを追求し、自分好みのコーヒーを探したいという方にはおすすめ。

 一方で、ブレードグラインダーは複雑なダイヤル調整がない。ミキサーのように回転する羽(刃)にコーヒー豆を当てることで細かくしていく。つまり時間をかけるほど粉々に細かく粉砕され、その都度当たり方が変わるため、粉砕のコントロールが難しい。構造としては簡易で比較的安価だが、粒度の再現性が低く微粉の発生が多くなる。そのため、均一な抽出や味わいの再現性が低い。このようにグラインダーには刃の構造によって味わいの傾向が異なることがわかる。

 グラインダーの刃は、購入時は刃の先端が鋭く尖っているが、使用する頻度や期間が長くなると刃の先端は徐々に摩耗する。摩耗した分だけ挽き目調整に狂いが生じ、少々厄介に。同じ挽き目ダイヤルでも新しいものと、高頻度で使い続けているものでは刃と刃の距離や当たり方が異なり、粒度に違いが出る。どんなに高性能のフラットグラインダーやコニカルグラインダーでも刃の摩耗は止められない。一般家庭において、短期間での摩耗は考えににくいが「最近、いつものコーヒーがなんか違う……」という場合は、グラインダーを疑ってもいいだろう。長期間使っているグラインダーであれば、買い替えの時期を迎えているかもしれない。

[fig.04]

〈コマンダンテ〉のハンドグラインダー『C40』は、コニカル刃を備えたコニカルグラインダー(左)。〈カリタ〉の『ネクスト G』はフラットグラインダー
(右)。そのほか、代表的なグラインダーはこちら。

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