「小川珈琲」は、“SDGs”という言葉が広まる以前から、エシカルなコーヒーに取り組んでいます。また、サステナブルな活動を推進する企業や生産者とのコラボレーションも、長年にわたり続けてきました。私たちは、サステナビリティとは何かを深く考えるために、社内外の人々との「対話」を大切にしています。
 
今回の特集では、今年2月に3周年を迎えた「小川珈琲 堺町錦店」2階ギャラリースペースで開催されたポップアップイベント「アースモールが考えた愛媛とのサステナブルな暮らし展」のオープニングトークの模様をお届けします。
 
持続可能な社会に向けた新しいアイデアを発信するインターネットショッピングモール&オンラインメディア『EARTH MALL with Rakuten』の編集長・平井江理子さんと、「小川珈琲」取締役 経営企画室 室長「SDGs推進委員会」の委員長を務める小川雄次が、イベントのテーマでもある「サステナブルな暮らし」について語り合いました。

上/弊社、小川雄次(左)と『EARTH MALL with Rakuten』の編集長・平井江理子さん(右)。オープニングトークはインスタグラムでライブ配信された 下/「小川珈琲 堺町錦店」のファサードには、砥部焼の陶器に加え、イベントのために県内の農家から贈られた柑橘類をディスプレイ

平井:このたびは、ポップアップイベントを開催させていただき、ありがとうございます。『EARTH MALL with Rakuten』では、約3年前から「WE FOUND EHIME」と題して、愛媛県のサステナブルな産品を、地域の歴史や環境、作り手の想いとともにオンラインでご紹介してまいりました。取材を通じて、御社のサステナブルな取り組みについてお話を伺った堺町錦店で、初めてリアルイベントを開催できることを大変うれしく思います。
 
小川:こちらこそ、貴重な機会をいただきありがとうございます。

「アースモールが考えた愛媛とのサステナブルな暮らし展」の展示風景。編集部がセレクトした愛媛県のサステナブルな12事業者の日用品や食品が会場に並んだ

平井:早速ですが、“SDGs”の普及により「エシカル」「フェアトレード」といった言葉をさまざまなメディアや店頭、街中で目にしたり、耳にしたりする機会が増えたと思います。しかしながら、実際に語られていることの背景や取り組みについて、深く知る機会はまだまだ少ないと感じています。
 
自分の取り巻く環境や暮らしを改めて振り返ると、国内生産のものだけではなく、多くの輸入品で生活が成り立っていることに気づきます。意識していなかっただけで、私たちは多くの国や人々とつながっているのだと感じます。未来のために思いやりのある選択ができるように、今回は「サステナブルな暮らし」について、小川さんと一緒に考えていけたらと思います。

平井:「小川珈琲」の歴史を遡ると、1995年という非常に早い時期に有機栽培のコーヒーを発売されていますよね。コーヒーの美味しさにこだわりながら、新たな取り組みに挑戦される姿勢に深く感銘を受けました。また、認証ラベル付きのコーヒーの流通量が多く、手に入りやすいこともうれしく思っています。「有機JAS認証コーヒー」「国際フェアトレード認証コーヒー」、渡り鳥が休息する森を守る「バードフレンドリー®認証コーヒー」など、さまざまな認証ラベル付きのコーヒーがありますよね。こうした取り組みについて、自社サイトやオウンドメディア『珈琲の広場』で継続的に発信されていることに、強いメッセージを感じます。やはり、購入する商品の背景を知ることは、「未来を想う」ことにつながると思うんです。

小川:うれしいお言葉をありがとうございます。1995年当時は、有機JASの認証自体がまだ存在しておらず、「サステナブル」という言葉も一般的ではありませんでした。そのような時代背景の中で、農薬を使わず、身体に負担の少ないコーヒーを消費者の方に届けたいという想いから、有機栽培のコーヒーの取り扱いが実現したと聞いています。そして、その後、2001年に認証ラベル付きのコーヒーの提供を開始しました。現地バイヤーを通じて、美味しいコーヒーを提供し続けるためには、サステナブルな環境と情熱のある生産者とのパートナーシップが不可欠だと強く感じています。
 
平井:シンプルで前向きな想いから生まれたエピソードが素敵ですね。消費者が「サステナブルなコーヒー」を選ぶ際のポイントは、どのような点にあるとお考えですか?
 
小川:コーヒー産地での取り組みが分かる商品を選ぶことですね。コーヒーは農産物であり、栽培される環境がとても重要です。農園の周囲の自然環境を守りながら栽培を行う農園や、有機肥料を活用している農園も多く、コーヒーの未来に目を向けた取り組みは世界各国で行われています。お店やWEBサイトでコーヒーを購入する際は、ぜひ農園の情報にも注目してみてください。
 
平井:教えていただき、ありがとうございます。「小川珈琲」のサステナブルな取り組みを発信する拠点として、「小川珈琲 堺町錦店」がオープンしてから3年が経ちました。お店が地域に根付いた今、特に感じていらっしゃる変化はありますか? 

小川:そうですね。改めて振り返ってみると店をオープンしたときに比べるとインバウンドのお客様がとても増えたように感じています。
 
平井: そうしたお客様が増えたことで、エシカルなメニューが増えるなど、具体的な変化はありましたか?
 
小川: 一番わかりやすいところでは、インバウンドのお客様から「ヴィーガンメニューはないの?」というお声をいただいたことですね。オープン当初は対応したメニューがありませんでしたが、「想いに寄り添うアクション」としてフムスのメニューを加えました。
 
平井: とても素敵な取り組みですね。お客様の反応を見ながら、その都度メニューを進化させているのでしょうか?
 
小川: そうですね。オープン当初から、京都の地産地消を意識したメニュー作りをベースにしており、そうした視点でお店や地域を盛り上げたいと考えています。例えば、パンの原材料には京都産の小麦にこだわるなどの工夫をしています。

イベントで販売された商品から。上/〈Musutakivi〉の器。日本とフィンランドの自然や風景などから影響を受けた、愛媛県出身アーティスト・デザイナーの石本藤雄と日本の手仕事によるタイムレスなデザインが魅力。下/内子町に本拠を構える〈GOOD MORNING FARM〉は、新鮮な地元食材を使いピクルス、ジャム、オイル漬けなどを手作りで展開している。

平井: 実際に、メニュー表に食材の産地が記載されていますよね。細部にまで配慮された届け方が、とても親切だと感じます。それと、今回京都を訪れ、さまざまな方とお話しする中で、京都ならではの取り組みがあることを改めて実感しました。
 
小川: 京都は観光客が多いという特徴がありますが、実際、「サステナブルツーリズム(持続可能な観光)」を推進する動きが活発になっています。京都の住人と旅行者が、環境のことを考えながらサステナブルな関係をどう築いていくか——京都という街自体が、そうした課題を抱えています。
 
平井: なるほど。「小川珈琲」は、若者世代やReuse(リユース)に関わるプレイヤーとともに、新しい生活スタイルを提案するイベント『循環フェス』にも参加されていますよね?
 
小川: はい。堅苦しいイベントではなく、ちょっとしたお祭りのようなものです。小川珈琲では「SDGs推進委員会」という組織があり、そのイベントに参加しています。

平井: 「SDGs推進委員会」の活動をさらに推し進められ、京都市から優れた取り組みを行う事業所として、京都工場と本店の2事業所が「2R及び分別・リサイクル活動優良賞」を受賞されましたよね。2Rということで、「Reduce」と「Reuse」がテーマだと思いますが、実際にはどのような活動をされているのでしょうか?
 
小川: 京都工場では、コーヒーの生豆を毎日焙煎しています。生豆は麻袋に入った状態で現地から届くため、使い終わった麻袋が毎日大量に発生します。その量は年間で約27トン。これまでは産業廃棄物として処分していましたが、何か有効活用できないか社内で話し合いました。その結果、麻袋を協力企業様とともに、廃棄せず加工して車の天井材にアップサイクルすることに成功しました。これにより、廃棄費用の削減につながり、現在ではほぼ100%リサイクルできています。
 
平井: ほぼ100%とは、すごいですね。
 
小川: ありがとうございます。さらにもうひとつ、ジャマイカ産の高級豆「ブルーマウンテンコーヒー」が入っていた樽のアップサイクルにも取り組んでいます。以前は廃棄していた樽を加工し、テーブルとして再生しました。2023年には、大丸京都店のリニューアルに際し、屋上広場に設置しています。機会がありましたら、ぜひご覧いただければと思います。
 
平井: こうした活動は以前からされていたのでしょうか?
 
小川: なるべく多くの社員に参加してもらいたいという想いがあり、「SDGs推進委員会」を立ち上げたことがきっかけになっています。その話し合いの中で、私たちの活動指針として「2R及び分別・リサイクル活動」を掲げました。
 
平井: 社員の皆さん自ら、前向きに取り組まれているのが素晴らしいですね。
 
小川: そうですね。“SDGs”に関する活動が日常から離れてしまうと、どこか他人事のように感じてしまうこともあります。だからこそ、なるべく多くの社員が関われるような取り組みを続けています。店舗での取り組みとしては、コーヒーグラウンズ(抽出後のコーヒー粉)を活用したプロジェクトがあります。コーヒーグラウンズをキノコの菌床にすると、キノコが育つことが分かったんです。「循環フェス」や「アースデイ」などのイベントを通じて、キノコを栽培されている方とつながることができました。今は、店で出たコーヒーグラウンズを使ってキノコを育て、最終的には店のメニューに取り入れることを目指しています。
 
平井: そんなことが可能なのですね。ぜひ、いつか取材させていただきたいです。京都を訪れるたびに、そうしたムーブメントが広がっていることを実感します。皆さんが、その時々で「自分たちにできること」を追求し、行動に移しているのがとても印象的です。実際に活動を続けることで、「小川珈琲」の社員の皆さんのサステナビリティに対する意識にどのような変化があったのか、お話を伺えたらと思います。

イベントで販売された商品から。上/視覚障がい者(アテンド)の研ぎ澄まされた感性をベースに作られた〈DIALOG IN T HE DARK〉のタオル。下/砥部焼の産業としての可能性を探るプロジェクト、〈白青〉の陶器や宇和島発〈Tangerine〉のジュース、GAP認証を取得する〈ミヤモトオレンジガーデン〉の調味料が並んだコーナー。

小川: そうですね。社員同士の意識もより深まっていると感じます。『珈琲の広場』でも私たちの取り組みを随時発信しているので、採用の場では特に若い世代の方が共感してくれることが増え、「ここで働きたい」と言ってくださる方が増えてきました。
 
平井: それはとても理想的ですね。長年、地道に続けてきたことがしっかり伝わり、未来へとつながっているのを感じます。今の段階で、「小川珈琲」が考える「サステナブルな暮らし」とは、どのようなものなのでしょうか?
 
小川: やはり、無理をしてしまうと続かないと思っています。お客さまが「美味しいコーヒーを飲みたい」と思い、その結果として「小川珈琲」を選び、その一杯が実はサステナブルなコーヒーだったというのが理想です。「美味しいコーヒーであること」は、私たちにとって何より大切なこと。そのうえで、美味しく、かつサステナブルな一杯を届けていきたいと考えています。つまり、本物の価値があるものであるかどうかが、重要だという強い思いがあります。公式HPでもコーヒーに関する情報を発信していますし、セミナーやイベント、コーヒー教室なども開催しています。ぜひ、もっと多くの方にコーヒーの魅力を深く知ってもらえたらうれしいですね。

イベント期間中、堺町錦店では、愛媛県内限定栽培の希少なオリジナル品種「甘平(かんペい)」を使ったフルーツサンドを砥部焼のブランド〈藤橋〉の食器で提供。愛媛県産レモンを使った温かいレモネードも期間限定メニューとして展開された
*限定メニューのため、現在は販売終了しています。

平井:小川さんがおっしゃるように、まず大切なのは「食べてみたいかどうか」だと思います。シンプルに、人の心に届く力を持ったコーヒーや食べ物を届けたいというお気持ちに、とても共感しています。そうした考え方は、アースモールが提案するモノ選びの大切な基準にもなっています。そして、今回のイベントに合わせて、「小川珈琲」さんに愛媛県の柑橘「甘平(かんぺい)」を使ったフルーツサンドイッチと愛媛県産レモンを使った温かいレモネードを作っていただけたことを、とてもうれしく思っています。愛媛の魅力を存分に引き出してくださった味に感動しました。京都で愛媛の味覚を堪能できる機会はなかなかないと思いますし、京都の方々にその素晴らしさを知っていただくきっかけを作っていただけたことにも、心から感謝しています。
 
小川: そうおっしゃっていただけると、本当にうれしいです。フルーツサンドは、甘酸っぱい柑橘と口どけの良いバタークリームの組み合わせがとても相性よく、おいしく仕上がったと思います。愛媛県産のレモンを使ったホットレモネードは、レモンのきれいな酸味を引き出すために、スパイスとハチミツで煮込んでシロップを作りました。身体が温まる甘酸っぱいホットレモネードは、優しい味で心に残る一杯になったと思います。
 
平井:本日は貴重なお話をありがとうございました。日常の中でサステナブルな選択をする人が少しずつ増えていくよう、今後も活動を続けていけたらと思っています。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

infomation
EARTH MALL with Rakuten
“Shopping is Entertainment!”という「楽天市場」のコンセプトのもと、この場所に集うすべての人たち(作る人・売る人・使う人)の日常を豊かに、心地よくするサステナブルな商品を、認証商品を中心にセレクト。また、認証商品だけでなく、多角的な視点でサステナビリティを捉え直し、商品を拡充しながら、持続可能な社会のための新しいアイデアを考えていくインターネット・ショッピングモール&オンラインメディア。「これからの未来への話。」という企画で、「小川珈琲」のサステナブルな取り組みと堺町錦店を紹介。今回、イベントでのコラボレーションへとつながった。
https://event.rakuten.co.jp/earthmall/