朗読:夏木マリ/ 詩:文月悠光
エシカルキャンペーン「コーヒーの詩」(朗読:夏木マリ/ 詩:文月悠光)の一遍、「わたしたちの休息地」の朗読。こちらの詩は、バードフレンドリー®認証コーヒーが題材となっています。
わたしたちの休息地
文月 悠光
鳥は降り立つ森を選ぶ。
長旅の羽を休めるために。
夜を渡る旅人のように、
町から町へすみかを転々として。
燃えるオレンジの陽が沈むまで
わたしの愛しいとまり木を探す。
おおきな腕を空にひろげて
迎え入れてくれる豊かな森を。
生きるために
生きることを休む時間が
わたしたちには必要なのだ。
カップに落ちる一滴一滴、
空っぽの胸に
染みとおる温かさを知る。
渇いた心の地平線を潤していく。
傷つかずに生きる人はいない。
飛び続けるだけの人生もない。
けれど、よるべない暮らしのなかで
かならず傷を癒して
飛び立てる日がくるだろう。
世界への信頼と覚悟さえあれば、
また旅に出られるのだから。
訪れるすべてを迎え入れるこの森では
様々なさえずりが響き合い、
鳥たちのうたごえが降りそそぐ。
鈴のように揺れる赤い実が
木陰でじっくりと熟していく頃には、
わたしも大人になる。
この身を捧げるにふさわしい、
生涯の営みを探し求めよう。
翼をひろげて
あたらしく生き直す。